ベクトルの基本公式は3つあります。
交換法則、定数倍、分配法則の3つです。
今回はその中の、ベクトルの分配法則について、証明していきたいと思います。
ベクトル内積の分配法則
$$\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$$
ベクトルの分配法則とは
ベクトルの分配法則は下記のようになります。
ベクトル内積の分配法則
$$\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$$
今回はこの『ベクトルの分配法則を証明していきます。』
あれ?これって前から使ってる分配法則と同じじゃない?
と思った方も多いと思います。
でも、今回はこの分配法則の証明です!
ベクトルの分配法則を証明する理由
これまで普通に使っていた分配法則。
なぜ今更証明しなければならないか。
ここを先に解説しておきますね。
ベクトルは方向を持った量のことです。
これまで使っていた分配法則は『量』だけを表すスカラーでした。
分配法則に限らずですが、
スカラーだと使えていた法則が、ベクトルでも使えるとは限りません。
「スカラーの場合だと分配法則は使えていたけど、方向を持ったベクトルでも分配法則は使えるのかな?」
これを確かめるために、ベクトルの分配法則を証明する必要があります!
ベクトルだと証明も少し複雑になるよ!
とは言ってもわかりやすく解説していくから、頑張ってついてきてね!
ベクトルの分配法則の証明
余弦定理を使う場合と、ベクトルだけで証明する場合の2パターンに分けて証明します。
『余弦定理』を使う証明の方が、『ベクトルの分配法則』は簡単に証明できます。
ではなぜ2種類の証明するのか。
それは、循環論法を避けるためです。
実は『余弦定理』は『ベクトルの分配法則』を使うと、簡単に証明できてしまいます。
ですが、『ベクトルの分配法則』の証明で『余弦定理』を使い、『余弦定理』の証明で『ベクトルの分配法則』を使ってしまうと、循環論法と言って、結局何も証明できていないことになります。
なので、どちらでも対応できるように2通りの解説をしています!
ベクトルの分配法則の証明を知りたいだけならば、余弦定理を使った証明だけで大丈夫ですよ!
余弦定理を使う証明|ベクトルの分配法則
この余弦定理を使った証明です。
証明手順
証明の手順は下記の2ステップです。
- 余弦定理でベクトルの内積を成分表示する。(内積がわかるなら、ここは飛ばしてOK!!)
- 内積の成分表示を使って分配法則を証明する。
という2Stepで証明します。
内積の成分表示を余弦定理で示す
ここでは内積の成分表示を証明します。
内積が理解できていれば飛ばしてください!
証明する式:\(\vec{a}\cdot\vec{b}=a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}\)
証明:
頂点Cからベクトル\(\vec{a}\)と\(\vec{b}\)が出ているとき、\(\vec{c}=\vec{b}-\vec{a}\)とする。
余弦定理より、
\begin{eqnarray}
|\vec{c}|^2 &=&| \vec{b}|^2+|\vec{a}|^2-2|\vec{a}|| \vec{b}|\cos C\\
|\vec{b}-\vec{a}|^2 &=&| \vec{b}|^2+|\vec{a}|^2-2|\vec{a}|| \vec{b}|\cos C\
\end{eqnarray}
ここで成分表示を用いると、
\(\vec{a}=(a_{1},\ a_{2})\)
\(\vec{b}=(b_{1},\ b_{2})\)
\(\vec{c}=(c_{1},\ c_{2})\) なので、
三平方の定理を用いると下記の式が書けるようになる。
\begin{eqnarray}
(b_{1}-a_{1})^2+(b_{2}-a_{2})^2&=&b_{1}^2+b_{2}^2+a_{1}^2+a_{2}^2-2|\vec{a}||\vec{b}|\cos C\\
\end{eqnarray}
展開して計算すると、
\begin{eqnarray}a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2} &=&|\vec{a}|| \vec{b}|\cos C \\
∴ \vec{a}\cdot\vec{b} &=& |\vec{a}|| \vec{b}|\cos C\\
&=& a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2} \end{eqnarray}
内積の成分表示ができたので、ここから分配法則の証明に移ります!
分配法則の証明
証明する式:
$$\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$$
証明:
\(\vec{b}+\vec{c}\)を成分表示すると、\((b_{1}+c_{1},\ b_{2}+c_{2})\)となる。
よって証明する式の左辺・右辺は下記のように導ける。
\begin{eqnarray}
左辺&=& (a_{1},\ a_{2})\cdot (b_{1}+c_{1},\ b_{2}+c_{2})\\
&=& a_{1}(b_{1}+c_{1})+a_{2}(b_{2}+c_{2})
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
右辺 &=& a_{1}b_{1}+a_{2}b_{2}+a_{1}c_{1}+a_2c_2 \\
&=& a_{1}(b_{1}+c_{1})+a_{2}(b_{2}+c_{2}) \end{eqnarray}
以上より、
$$\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$$
は成立する。
ここまでが余弦定理を使った場合の証明になります。
内積の成分表示を表すことができれば、分配法則の証明は非常に簡単です。次は、内積の成分表示を使わないで、直接ベクトルの分配法則を導いていきましょう。
余弦定理を使わない証明|ベクトルの分配法則
ここからは余弦定理を使わずに、ベクトルの分配法則を証明していきます。
(正確には、内積の成分表示を使わずに直接分配法則を証明する方法です。)
分配法則の証明
\(\vec{a}\)の大きさを\(a\)とし、\(\vec{a}\)と\(\vec{b}\)のなす角を\(\theta\)とする。
ベクトルの内積は\(\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta\)である。
$$\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta=a\times①$$
同様に\(\vec{a}\)と\(\vec{c}\)及び、\(\vec{a}\)と\(\vec{b}+\vec{c}\)を考えると、
$$\vec{a}\cdot\vec{c}=|\vec{a}||\vec{c}|\cos\theta_2=a\times③$$
$$\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=|\vec{a}||\vec{b}+\vec{c}|\cos\theta_3=a\times②$$
ここで、\(②=①+③\)なので、
$$a\times②=a\times①+a\times③$$
となる。
∴\(\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}\)である。
ベクトルの分配法則|まとめ
ベクトルの分配法則
$$\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$$
証明する方法は2つあります。
- 余弦定理を使って成分表示したベクトルの内積を使う方法
- 成分表示していないベクトルの内積を直接使う方法
余弦定理を使える場合は、成分表示したベクトルの内積を使う方が早いです。
しかし、余弦定理をベクトルで証明しようと思うと、成分表示したベクトルの内積は使用できません。
(循環論法になってしまうためです。)
その場合は2の方法を使って証明しましょう!
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